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「21世紀のリーダーシップについて」(3) 今道友信

2020年04月23日リーダーシップ

 冒頭中盤と分けてご紹介してきた、今道友信先生の講演「21世紀のリーダーシップについて」。
 後半では、いよいよ21世紀に求められるリーダーシップの10条件が完結します。
 そこでは、国家主義的な枠から脱却した新しい世界構造を模索し、東西の文化の相互補完や真のヒューマニズムの創設を目指すリーダー像が示されます。
 そして、その10の条件のさらに上に置かれた「謙虚さ」というキーワード。現代に生きる私たちは、果たして十分な「謙虚さ」を持ち合わせているでしょうか。内省を迫る講演の結びに、耳を傾けましょう。

3. 21世紀に要求されるリーダーシップ

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 ここまでは、20世紀も21世紀も区別しかねるようなリーダーシップの条件を述べてきました。ここからは、特に21世紀が要求するリーダーシップとしてどのようなことが考えられるかを手短に申し上げます。

 18世紀、つまり近代が始まってから、初めて東西は全面に文化的相手として向かい合うようになりました。18世紀における東西関係は、物質的好奇心によって誘われた、珍しい物品の交換が主でした。19世紀には、文化的関心に導かれて相互の異質な古典に関する歴史的研究が開始され、翻訳も出版され始めました。次の20世紀には、人文主義的教養と哲学的関心から相互の比較研究が成立し、人類が寄るべきヒューマニズムとして、東西それぞれの相補う意義が予感されてきました。そして21世紀は、東西の文化が相互補完性に目覚め、真のヒューマニズムを創設するときと言えます。
 つまり、リーダーの第7番目の条件は、この世紀の課題として世界人となる努力をすることであり、国家主義の枠から脱却して、国家から成る世界とは異なる22世紀の世界構造に向けて、真剣な眼を開いていかなければならないということです。
 21世紀のリーダーについて考えるとき、東洋の側からの哲学的貢献の例として、私は孔子の『論語』を挙げてみたいと思います。『論語』では、3つのことをリーダーの条件として挙げています。その1つは勇気です。それは反対者が何百、何千といても、自分が是と信じたならば自分の意見を主張し続ける勇気です。そして2つ目は他者への誠実さ、仁、慈悲、つまり愛です。3つ目はその究極としての自己犠牲ということになります。
 この3つはいずれも義、中国語で発音すればイという徳によって支えられています。このイは、もし英訳するとすればリスポンシビリティー(責任、義務)と言うほかはない。この言葉自体は、いまは西洋でも大事にされていますが、もともとは1787年に造語された全く新しい概念です。したがって、もしわれわれが価値というものを挙げるときには、このリスポンシビリティーのようなものも価値の中に加えてもよいのではないかと思います。そこで、リーダーの第8番目の条件としては、責任を負う勇気、義を負う勇気が挙げられます。そして第9番目の条件は、自己犠牲の覚悟を伴うほどの他者への誠実さです。

 もし10という数が完全教であり、リーダーシップの条件も第10番目まで求めようとするならば、第10番目の条件こそは、世界の平和を祈念する真剣な心です。しかし、こういう大きな問題に対しては、われわれがいかに小さい存在かを思わざるを得ません。したがって、この10の条件の上に、リーダーであろうとなかろうとすべての人に必要なものとして、人間としての謙虚さを挙げたいと思います。
 リーダーとなる人は、まず一人の知的市民として哲学的な理念に憧れを持たなければなりません。それが魂の世話としての哲学です。しかし、その後で10の条件を満たしても、最後に「人間としての謙虚さ」を持たなければならない。それが21世紀に必要とされるリーダーの条件だと、私は思っております。