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懇話会短信~「『格差』の見方と考え方」 大阪大学名誉教授 猪木武徳先生による懇話会を開催~

2019年12月17日

アスペン・フェローズ懇話会が12月14日(土)、国際文化会館で開催され、およそ80名のアスペン・セミナー卒業生が参加されました。
今回の講師は、アスペン・セミナーのモデレーターとしてもご活躍いただいている、日本アスペン研究所理事 大阪大学名誉教授 猪木武徳先生。テーマは、世界各地で政治問題化していて関心の高い「格差」についてです。

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現在私たちは「格差」という表記に慣れていますが、かつては「較差」という字が使われていたことがまず指摘されました。猪木先生は、この漢字の使われ方の変化に政治的なニュアンスが含まれると仰います。人々の間の経済的な「差」は、客観的な事実としてというより、嫉妬や怨望のような感情を纏いつつ、複雑化してきているというのです。
また、客観的に事実を把握しようとする際にも、落とし穴があります。数年前にベストセラーになったトマ・ピケティの「21世紀の資本」では、スーパーリッチ層に焦点を当てて不平等の拡大が指摘されていますが、日本における事実を丁寧に検証するならば、むしろ目を向けるべきは、人間の尊厳を傷つけるほどの貧困が広がっていることにあると、猪木先生はご指摘されます。

「嫉妬を生むものは、他人との大きな不均衡ではなく、却って近似なのである。」(デビッド・ヒューム)
「怨望は働の陰なるものにて、進みて取ることなく、他の有様に由て我に不平を抱き、我を顧みずして他人に多を求め、その不平を満足せしむるの術は、我を益するに非ずして他人を損ずるに在り。」(福沢諭吉)
猪木先生のご講演は、このような金言を引用しながら、人間の本質に迫っていきます。中間階級の没落がポピュリズムを生んでいるという論は多いですが、単に中間階級の“数”の問題だけではなく、それらの中間階級がヒュームや福澤たちが指摘するような人間の本質にしっかりと向き合って熟考する教養と公共精神を持ち合わせいるのか、という質的な問題に目を向けるべきなのです。

私たちが社会の問題を考える際、単なる印象論やセンセーショナルなデータに惑わされることなく、多面的かつ人間の本質に迫るほど深く考えていかなければならないのだと、改めて反省させられるご講演でした。