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9月15日は本間長世先生の、10月13日は今道友信先生の命日。両先生を偲ぶ鼎談を再掲載(3)

2020年09月29日アスペンセミナー

 前回に引き続き、本間先生、今道先生を偲ぶ鼎談を掲載します。
 本間先生と今道先生を偲ぶ鼎談3回目は、お二人のパーソナリティーや、幅広く、深い教養について語られます。また、オーラに満ちたお二人ならではのモデレーターぶりが、エピソードともに紹介されますが、それは誰にも真似のできない、もはや伝説といっていいぐらいの領域にあったようです。


鼎談 リベラルアーツの魅力を広げる――本問先生、今遣先生を偲んで
会報「アスペン・フェロー」No, 24(2013年3月発行)より

小林陽太郎 ●日本アスペン研究所理事長
村上陽一郎 ●日本アスペン研究所副理事長 東洋英和女学院大学学長
松山幸雄 ●日本アスペン研究所理事 共立女子大学名誉教授
(肩書は、鼎談が行われた当時のものです)

オーラのあるモデレーター

dummy小林陽太郎氏

小林 先ほど松山さんが本間アスペン・今道アスペンとおっしゃいましたが、お二人が亡くなって特に思うのは、本間・今道コンビのようなモデレーターは、本当に世界中どこを探してもいない、超スーパーコンビだったんですよ。

村上 そうかもしれません。

松山 天の配剤というか、あのコンビはつくろうとしてもつくれません。お二人続けて亡くなられたのは、何とも残念なことでしたね。

小林 トータル・パーソナリティーと言ったら変かもしれませんが、お二人ともオーラみたいなものがありましたね。確かにアメリカはモデレーターの数は多いのですが、プロフェッショナル・モデレーターというか、それなりに対話を運んでいく役割はするけれど、お二人のようなオーラを持つ人はまずいない。だから、モデレーターの温かさ、パーソナリティーにほぐされて話を聞きながら涙を流す。そんなことはアメリカでは絶対にないですよ。

村上 今道先生はご自身でも涙されて(笑)。

松山 声も魅力的でしたね。今道先生は語学の達人で、旧制一高の三年間で英・独・仏・ラテン語・ギリシア語を全部マスターしたという「今道伝説」があるんですよ。しかも一高のときは国文研究会に属し、寮歌もつくっているんです。単なる哲学者ではありません。今道先生が「奥の細道」などを朗々と読み上げるときは、本当に嬉しそうでしたね。国文の教養も大変なものでした。

村上 中国漢籍、古典の素養がありますし。

松山 国際シンポジウムで今道先生がギリシア語やラテン語を駆使して哲学の話をしだすと、アメリカ人がみんな感心して耳を傾ける。ギリシアの哲学者が出てきたような風貌もプラスに作用したと思います(笑)。見ていて同じ日本人として鼻が高かったですね。

小林 今道さんは日本人じゃないと言っても通用しますからね(笑)。

松山 本業以外にも、今道先生の音楽の教養はすごいものだし、本間先生は歌舞伎など本当にお詳しかった。

村上 それから本間先生には天性のユーモアがあるんですね。ちょっと辛いところがあるけれど(笑)。

松山 柔らかな棘を持っていましたね。ですから会話がいつも生き生きして楽しかった。

村上陽一郎先生

村上 それが本当に本間先生の周りを囲んでいる一つの特徴ですね。とても真似できない。
 これも本当に真似ができないなと思ったのは、あるセミナーで『ソクラテスの弁明』をテキストに対話したときに、こんなに付き合いにくい男はどうしようもないというソクラテス批判が二、三人の参加者から出て、そう思うのももっともなところがないわけではないのですが、それに対して今道先生は、その場では言うべきでないと思われたんでしょう、ずっと黙っていらしたんです。そしてほとんど徹夜のようにしてA4の紙二枚ぐらいに万年筆で「いかにソクラテスの弁明を弁明すべきか」ということを書かれて、翌日の朝、コピーして配ってくれとおっしゃったことがありました。そこまで思い入れというか誤解を受けるのは耐えがたいという思いがあったのでしょうね。ソクラテスヘの思い入れは本当に深いものがあったと思います。

松山 専攻している学問の分野で、会ったこともない昔の人にあれだけ心酔できるというのはすごいですね。私などは、石橋湛山は身近な人だったから彼の著作はすいすい頭に入ってゆくけれど、大昔の人の書いた古典を読んで涙を流したりがっくりと落ち込んだりするのを目の当たりにすると、哲学者というのはすごいものだなと思います。

村上 それが、ハッチンスが言う「重要な価値を重要な価値として大切にする」という、瑣末主義に対する一つの身をもった体現かもしれないとも思いますね。

dummy松山幸雄氏

松山 いまのお話に関連しますが、お二人とも長期的な視点で人間というものを考えていました。われわれはどうしても「次の総選挙で」とか「次の株主総会は」ということを考えがちですが、そういうことから離れて、人間は本来何のために生まれてきたのか、これからどうするのかというアスペンの問いかけについて、本間先生も今道先生も非常に長期的な視点を持っておられたと思います。
 これはあまり話したことがないんですが、1999年9月に今道先生は日本学術会議のエネルギー審議会に招かれて「エネルギーを哲学から考える」というレクチャーをされたそうです。そのとき先生は「エネルギーはプラトン以来、哲学、倫理、宗教を含めた学際的な大問題で、これを科学、技術、経済の視点だけで論ずる風潮は好ましくない」と叱り、「原子力では考えられないような事故が起こりうる。もっと日本の風土にあった太陽熱、地熱、水力、波力などのエネルギー開発に創意工夫すべきだ」と力説された。これに対してメンバーの中から「いまの日本の高い技術水準から言えば、考えられないような事故が起こるとは考えられない」という反論が出たとか。そこで今道先生は「技術者は三十年単位の視点、哲学者は千年の視点で考えるのです」と言われた。ところが散会した直後に「東海村での臨界事故」という「考えられない事故」の知らせが入り、一同唖然としたそうです。
 その話を今道先生から直接お聞きして新聞のコラムに書いてお送りしたところ、とても喜ばれましてね。丁重な礼状をいただきました。
 セミナーの参加者はビジネスマンが多く、どうしても皆さん短期的な視点で右往左往しがちですからね。その点でも、長期的なことをゆっくり考えるというアスペンは、今道先生には居心地がよかったんだと思います。

村上 千年に一度の津波が来ちゃいましたからね。

松山 考えられないことが起きる。まさにキッシンジャーの言う「Think about the unthinkable」が大事ですね。

(次回に続く)